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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (131)
経済小説
2011年4月29日 07:00

工事途中の建物をそのまま買いたいという人はいないので... 東京の物件は、工事中に民事再生を迎えたため難しい問題があった。
 工事を発注するとゼネコンが建物を建てていくが、当社がゼネコンに建築代金を支払うのは竣工後である(ごく一部の金額は工事開始時と上棟時に支払うが)。このため当社が倒産することでゼネコンは、この物件に関して代金は20%しか受け取っていないが工事は90%まで進捗させ、そこまでに必要な材料費や人工代はすでに支出していた。したがってこのゼネコンは、当社の民事再生のせいでその差の70%分を手出ししてしまっていることになる。その70%の手出し分はゼネコンから当社に請求するべきものであるが、民事再生の開始前の原因によって生じた債権であるため、ほかの債権と同様にカット対象となる。

 そのうえ、工事途中の建物をそのまま買いたいという人はいないので、当社はゼネコンには債権カットを飲んでいただいたうえで、竣工までの工事を発注しなければならない。しかも竣工までの工事代金は当社が独力で支払えるはずがなく、この物件の最終の買い手を探して売却契約を締結し、物件を引き渡すときに売却代金の中からゼネコンに残工事の代金を支払うのである。

 つまり工事途中物件の民事再生の場合は、ゼネコンに債権カットを納得してもらい、その物件の最終売却をきちんと決め、そのうえで竣工までの残工事を請けていただく、というハードルがある。時には連鎖して倒産してしまうゼネコンもあるし、現場を放棄するゼネコンもある。そうなると次の工事の引き受け手を決めるのにまたひと苦労となる。
 しかし当社の場合は、相手方ゼネコンの理解と中井常務の誠実な人柄もあって、これらのハードルを乗り越えて、東京新宿のオフィスビルを竣工させ約30億円で売却し、ゼネコンにも所定の工事費の支払を終えたのであった。

 札幌の物件も難しかった。
 民事再生時点では工事はストップしていたが、躯体工事に備えて敷地の大半を深さ7メートルまで掘削してあり、巨大な穴となっていた。ところが、ここに地下水が溜まり巨大なプールのようになっていた。さらに民事再生を出したことには雪が降り出し、積もれば普通の空地と見分けがつかず、子供が入ろうものなら事故になるのは確実であった。

 そのためこの物件については、当社が9,000万円の手元資金を支払って穴埋め工事を行なうことが必要だった。その工事費は、物件を売却するときに回収するよりほかない。つまり、土地を7億で売却し、担保権者には6億3,000万円を返済するということである。しかし、担保権者である銀行がこれに応じなかった。このためやむを得ず、銀行との合意なしで埋立工事を行なった。弁護士と同席で銀行とも交渉したうえでの措置であった。ゼネコンにより先取特権を登記してもらうことも考えたが、銀行との付き合いを考慮してか、受け入れてもらえなかった。

 ところが銀行は「埋立工事が終わるや否や土地の抵当権を実行する」としてきた。実行されれば当社は9,000万円のまる損となる。
 最終的には、岩倉社長がより高く買ってもらえる売却先を探したこともあって、銀行側は競売を取り下げ埋立工事費は全額ではないが返してもらった。

 これら以外の不動産についても、それぞれに問題を抱えていたが岩倉社長とセントラルレジデンスに転籍した営業社員のサポートもあって、逐次解決を図り、13件の不動産を無事に処理することができた。

<各種還付金、資産換金、追加配当、再生手続の終結>

 平成21年度法人税法改正により、中小の赤字法人は、前期に黒字だった場合は前期に支払った法人税を還付してもらえる、ということになった。金融危機後の中小企業支援先の一環である。当社の場合も民事再生を申し立てたということで、この恩典を享受できることとなったので、還付申告を行ない3億4,000万円の還付金を得るに至った。
 また、平成22年3月期も当社は結果としてまるまる事業を行なっており、決算した結果、消費税還付金7,000万円も発生することとなった。

 これらに加え、各種資産(売掛金、前払費用など)の換金を進めたため、予想配当率は当初目指していた47%から10%まで伸びた。その後、税金の還付が余りに円滑に進んだため、還付された税金については、後になって税務当局による再調査の可能性もあると考えしばらく様子を見るなどのことがあり(実際、消費税の還付については税務調査が入った)、時間はかかったものの平成22年9月21日をもって追加配当を実行することになった。本配当を含め配当率は10%となり、時間をかけた甲斐があったと思った。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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